米国の損益通算ルールについて

 米国には、税務上申告する年度に発生した他の所得と損益通算できる損失制限について①受動的活動のルール(Passive Activity Rules)と②危険負担のルール(At-Risk Rules)の2つのルールが存在します。

 ①受動的活動のルールは、納税者が実質的に参加していない(not materially participate)事業活動に適用されます。この場合における納税者は、単に投資から得られるリターンのみを期待している投資家のことをいいます。納税者が実質的に参加していない事業活動は税務上受動的活動とされ、賃貸活動は、不動産業者でない限り受動的活動とみなされます。このルールは、個人(individual)および閉鎖会社(closely held corporation)、人的役務提供法人(personal service corporation)に適用されます。

 ここで、閉鎖会社とは個人的所有会社のことであり、5人以下の株主で株式の50%超を保有している小規模な法人のことをいいます。また、人的役務提供法人とは、従業員株主が人的役務(医療、法務、技術、設計、会計、保険数理、芸術、コンサルティング)を提供する法人のことをいいます。

 受動的活動のルールは、受動的活動以外の所得と受動的活動の損失の相殺を制限するルールであり、換言すれば受動的活動の損失は受動的活動の所得としか相殺できません。他の受動的活動の所得と相殺できなかった損失は、翌年度以降に繰り越すことは可能です。

 ここで、受動的活動以外の所得とは、給与所得といった能動的所得(active income)や利子所得、配当所得、ロイヤルティ所得といった投資関連所得(portfolio income)のことを指します。このように米国では税務上、所得は投資関連所得、能動的所得、受動的所得の3区分に分類されています。

 ②危険負担のルールは、事業や投資活動から生じた損失の控除は、負担されたリスクの金額までしか控除できないというルールのことです。このルールは、個人および閉鎖会社に適用されます。

 例えば、米国には通常のC法人(C-corporation)と小規模なS法人(S-corporation)がありますが、S法人に100万円の投資をして、唯一の株主兼従業員である場合において、200万円の損失を被った場合であっても、その損失は他の所得と100万円までしか損益通算することはできません。ただし、損益通算できなかった損失は将来に繰り越すことは可能です。

 危険負担のルールは、事業活動における納税者の投資(investment)に関するものである一方、受動的活動のルールは事業活動における納税者の参加(participation)に関するものであり、相互に関連していますが、受動的活動のルールを適用する前に危険負担のルールを適用するという関係にあります。